2008年7月5日土曜日

為政(いせい)第二-十八

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子張學干祿、子曰、多聞闕疑、愼言其餘、則寡尤、多見闕殆、愼行其餘、則寡悔、言寡尤行寡悔、祿在其中矣、

子張(しちょう)、禄(ろく)を干(もと)めんことを学ぶ。子(し)曰(のたま)わく、多くを聞きて疑わしき闕(か)き、慎(つつし)みて其の余りを言えば、則(すなわ)ち尤(とがめ)寡(すく)なし。多くを見て殆(あやう)きを闕(か)き、慎みて其の余りを行なえば、則ち悔(く)い寡なし。言(ことば)に尤(とがめ)寡なく、行ないに悔(くい)寡なければ、禄(ろく)は其の中(うち)に在(あ)り。

子張が禄を取るためのことを学ぼうとした。先生はいわれた、「たくさん聞いて疑わしいところはやめ、それ以外の[自信の持てる]ことを慎重に口にしていけば、あやまちは少なくなる。たくさん見てあやふやなところはやめ、それ以外の[確実な]ことを慎重に実行していけば、後悔は少なくなる。ことばにあやまちが少なく、行動に後悔がなければ、禄はそこに自然に得られるものだ。[禄を得るために特別な勉強などというものはない。]」
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■多くを聞くこと、多くを見ること。そして信念を持って行動せよ。

 弟子の子張が役人になって給料をもらう方法を孔子に問うた。孔子曰く、その返答のまず最初の一言に私は感動した。「多くを聞きて」とある。実はこれこそ、孔子が「聖人」とも「人間の師」とも讃えられた人物たる所以であろう。やはり孔子は「対話」の天才であった。偉大な教師であったと感ずる。いわば師たる者、人を教導するための並外れたコミュニケーション能力が備わっていなければならない。この師あってこそ、東洋第一の書たる『論語』が出現したのだ。
 孔子の時代から2500年後の今、私たちに求められているものは一体何なのだろう。それは「まず聞く」ことからはじめるコミュニケーションではないのか。今流行のビジネススキルである「コーチング」も、そのエッセンスは、まず「聞く」ことから始める。もっと深く深く相手から「聴け」と言う。対人関係の逹人は、まず聴き上手だ。最初からペラペラ自分のことから話し始めるのは、愚の骨頂であり、少なくとも、人の上に立つべき人物のやるべきことではない。そしてまた、「多くを見て」自分が確信の持てることを慎重に実行せよ、と教える。曖昧を排除して、確実なことを実行すれば失敗も少ない、と言う。そうすれば、自然と金はついてくる、というのだ。
 まさに現代にも合致する教えではないか。まったく人間社会の真理と言えよう。厳しいビジネス社会においても、真に成果を出せるのは、言行一致を基とする「信用」であろう。言っても実行しない者の話を誰が信じよう。それよりも、しっかりと相手の話を聴き、そして慎重に実行する人物に過ちがあろうはずもない。もちろん、自分の行為に後悔も生まれないだろうし、何より、他人はその人を重用するはずだ。

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