2008年7月9日水曜日

里仁(りじん)第四-五

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子曰、富與貴、是人之所欲也、不以其道得之、不處也、貧與賎、是人之所惡也、不以其道得之、不去也、君子去仁、惡乎成名、君子無終食之間違仁、造次必於是、巓沛必於是、

子(し)曰(のたま)わく、富(とみ)と貴(たっとき)とは、是(こ)れ人の欲する所なり。其の道を以て之を得ざれば、処(お)らざるなり。貧(まずしき)と賤(いやしき)とは、是れ人の悪(にく)む所なり。其の道を以て之を得ざれば、去らざるなり。君子は仁を去りて悪(いず)くにか名を成さん。君子は食を終るの間(あいだ)も、仁に違(たが)うこと無く、造次(ぞうじ)にも必ず是(ここ)に於(おい)てし、顛沛(てんぱい)にも必ず是に於てす。

先生がいわれた、「富と貴い身分とはこれは誰でも欲しがるものだ。しかしそれ相当の方法[正しい勤勉や高潔な人格]で得たものでなければ、そこに安住しない。貧乏と賎しい身分とはこれは誰でも嫌がるものだ。しかしそれ相当の方法[怠惰や下劣な人格]で得たのでなければ、それも避けない。君子は人徳をよそにしてどこに名誉を全うできよう。君子は食事をとるあいだも仁から離れることがなく、急変のときもきっとそこに居り、ひっくり返ったときでもきっとそこに居る」
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■成果は誰でも欲しがるが、それ相応の手段で手に入れなければ価値がない。

 現代は、何事も「インスタントの時代」だ。昨今の人間は、人生の成功さえも、ある日、突然、天から降ってきて欲しい、と願うようだ。宝くじに当たった人間たちのその後の人生が、あまり芳しい噂を聞かないのは、まさしく、大金を手にするにはまだ相応しくない人間が、それを突然掴んでしまったせいであろう。
 人には、その目指すものが大きければ大きいほど、準備に要する時間も大きくなるものだ。目標が大きければ大きいほど、障害も大きくなり、それを達成するための時間も長くなるはずだ。例えば、とてつもない程のビジョンを掲げるのであれば、それなりのスケジュールを組まねばならない。下手をすると一生かかるものもあると思う。もっと巨大な事業には、2世代、3世代かかるものもあろう。えてして人は、目標は大きく持ちたがるくせに、それを実現するまでの過程は、小さいほど良いと考えている。だから「玉の輿」や「逆玉」などの薄っぺらな人生成功ドラマが持て囃されている所以だ。
 しかし、簡単に達成できる夢は、それなりの感動しか得ることができない。艱難辛苦を経て実現した夢は、たとえそれが他人から見たら小さな夢だとしても、本人にとっては価値あるものなのだ。だからこそ、社会で事を成すためには、それも大きな事を成すために必要だとされている素養は「辛抱」だ。「我慢強さ」なくして、社会においては何事も成し得ない。新卒入社一二年で転職を繰り返す若者たちを見ていると、おそらく、彼らの夢は、ほんとうに小さいのだろうと可哀想になっていく。

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