2008年7月10日木曜日

里仁(りじん)第四-十一

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子曰、君子懷徳、小人懷土、君子懷刑、小人懷惠、

子(し)曰(のたま)わく、君子は徳を懐(おも)い、小人(しょうじん)は土(ど)を懐う。君子は刑を懐い、小人は恵(けい)を懐う。

先生がいわれた「君子は道徳を思うが、小人は土地を思う。君子は法則を思うが、小人は恩恵を思う」
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■目には見えない「仁の法則」を知ってこそ、君子である。

 君子は人生の原理原則に思いを至らせ、つまらない人間は実利を追う。現代資本主義社会に生きる人間から見れば、いささか浮世離れしていることだと思うだろう。しかし、現代だからこそ、この古い教えに立ち返りたいものだ。
 現代人は、土地持ち、金持ちを尊敬するのだろうが、論語は“利”より“義”を尊ぶ。利益を得るにあたっても、その方法に“不義”はないかと問う。人の道にはずれた方法でいくら財産家になったとしても、その人は尊敬されない。こんな哲学を持たない家庭や国家は、必ず荒れていくものだ。現代日本人の心の乱れは、ひとえに「取ったもの勝ち」と言えるような、殺伐とした弱肉強食の資本主義思想の蔓延に原因がある。これは断言できる。だからこそ今、社会全体が貧乏だった頃の昭和三十年代を舞台にした映画などが流行っているのだ。人は貧乏であっても温かい人間関係にこそ幸福を感じるのだ。ギスギスした人間関係の物量豊かな環境を選ぶのか、思いやりがある質素な暮らしを選ぶのか。ほとんどの人間は後者を選ぶに違いない。
 「貧すれば鈍する」という人もいるだろう。「衣食足りて礼節を知る」ということも正しい。しかし論語に一貫している思想は「仁」であり「徳」である。これなくしては、どんな価値観も輝かない。この一点は、たとえビジネス社会でも同様だ。仁や徳の無いビジネスで、例え一時的にも金銭的な成功を収めたとしても、必ずその崩壊は早い。

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